2006年06月20日

ウルフェルストーリー4

第4話


 ここで少し時間をさかのぼってロンドンに舞台を移す。



 告別式を混乱の中で終えたジェームズは、出港所の見張りに伝えてくれた礼をのべ、ウルリックが盗んだ船の持ち主を詫び金を渡して欲しいと頼むと、見張りをともなって墓地を離れていった。

「ところで、役人には伝えてくれたか?」

「いえ、士官殿のご子息の事ですし、詫び金もお渡しになるのでしょう?」

「そのつもりだ」

「でしたら、わざわざ事をあらだてることもないと思います。それに私が居眠りをしていたことまで報告しなければならなくなりますし」

見張りの男はそう言うと、肩をすくめて見せる。

「いや、そういうわけにはいかん。それに君は、事件の事だけを報告してくれればよい」

ジェームズは、銀行で金を引き出して見張りにたくし、誰も出迎える事のない我が家へと戻っていった。



 それからしばらくして、ロンドンの町はにわかに黒雲に包まれはじめ、港に続々と船が戻って来はじめていた。

「嵐がひどくなる前に、小さな船は陸に上げちまうぞ!」

船乗りたちが掛け声とともにバルシャ級以下の船を陸へとひきあげている。

「今日の嵐はひどくなりそうだ」

「まったくだ。このままだと数十年に一度っていうようなのが来ちまいそうだぜ」

船乗りたちは黒雲に覆われた空を見上げ、互いに噂しあう。

それは数時間後に現実のものとなった。



 嵐はどんどんと激しさを増し、ロンドンの家々を震わせつづけている。

ボーロ家の立派な造りの屋敷も例外ではなく、嵐に震えながら耐えていた。

「マリア様、どうかウルをお守りください」

墓地でジェームズと見張りの男との会話を盗み聞いてしまっていたトリソは、屋敷内の小さな礼拝堂でひざまずき、一心不乱に祈りつづけている。

長い時間そうしているのでひざが痛くなってきているはずだったが、まるで気にするそぶりもない。

そんなトリソを慈悲のこもったまなざしで見下ろしているマリア像が、かすかにうなずいたように見えたのは稲光のせいであったろうか?

もっとも、目を閉じ祈りつづけているトリソには気づけるはずもなかったが。



 街からは人影が消え、嵐だけが我がもの顔で闊歩している。

だが、特に危険なはずの港にひとつの人影が・・・

ジェームズだ。

彼は荒れ狂う海をにらみつけながら、そこで航海しているであろう我が子の事を思う。

(どうか、無事でいてくれ・・・)

そして、その姿はまるで彫像であるかのごとく、そこに永遠に立ち尽くしたままであるかのようだった。

posted by ウルフェル at 23:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 自分で書いた小説のようなもの関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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