2006年06月25日

ウルフェルストーリー5

第5話


 さて、ウルリックの話に戻ろう。

リフィカから呼びかけられた工房のあるじは、作業の手をやすめ妻にスープを温めなおすように頼むと、ウルリックの寝かされている部屋へとむかい、

「腹が減ったろう?今、スープを温めさせているからな」

と言いながらベッドの脇にある丸椅子に腰掛けた。

スープと聞いてウルリックは腹を鳴らし、その大きな音に顔を赤らめたが、それを隠すかのように疑問に思っていた事を一気にまくし立てた。

「ここはどこですか?ぼくはどうしてここに?ぼくの乗っていた船は?」

「おいおい、そんなに一度に聞かれても答えられん。それに聞きたいことがあるのはこちらも同じだ」

「ごめんなさい」

「まあ、いいさ。まずは腹ごしらえが先だろう」

工房の主人がそう言って苦笑していると、うまそうな匂いをさせた皿を盆にのせ、リフィカが危なっかしい足取りで部屋に入ってきた。

「はい、おきゃくさま〜。ごちゅうもんのおしなですよ〜」

すっかり食堂ででも働いているつもりになっているリフィカに心配そうな顔でうしろからついてきたシェリアも工房の主人もウルリックも笑顔をこぼさずにはいられない。

「う〜〜〜、ぼくにも運ばせてよー」

ただひとり、自分も運んできたかったウルフィだけは不満そうであったが・・・。



ウルリックは旺盛な食欲でスープをふた皿もおかわりし、すっかりたいらげてしまった。

無理もない。彼はあの大嵐の中をひとりで航海し、波にのまれ、浜辺で気を失ってからほぼ三日間なにも口にしていなかったし、食べ盛りでもあったのだから。

「え〜と、まずは名前を聞こうか」

ウルリックが食べ終わったのを見てとると工房の主人が聞いた。

「えっと、ウル・・・フェルです」

ウルリックはとっさに嘘をついた。だが、こののちずっとこの名を名乗る事になるとは、彼にわかるはずもなかっただろう。

ここからは、この少年をウルフェルと呼ぶことにしよう。

工房の主人はウルフェルが名乗る時に見せた一瞬のためらいに何か引っかかるものを感じたが、そのことは聞かずにシェリアにリフィかとウルフィを連れて部屋に戻るように命じるだけだった。

「え〜〜〜〜!つまんな〜〜〜い!」

リフィカとウルフィは口をそろえて不満を口にしたが、シェリアに促されるとしぶしぶ部屋を出て行く。

「さて、はなしてくれるか。なぜひとりで漂着することに?」

「たぶん、だいぶ前のことからお話しないといけません」

工房の主人がうながすと、ウルフェルはこれまでの事を意を決した様子でゆっくりと話し始めた。

 ・父親が家庭をかえりみず仕事に没頭していた事

 ・その為に母親に心労が絶えなかった事

 ・ついには母親が倒れ、亡くなった事

 ・母親の死後、知人の家に預けられる事になったがそこから家出してきた事

 ・船で海へ出たが嵐に遭い、海に投げ出され波にのまれてしまった事

すべてありのまま話した。

もっとも、父親の名前や職業のこと、ロンドンで船を盗んだ事は黙っておいたが。

「そうか…、なんだかいろいろ大変だったようだな。ところで行くあてがあるわけじゃないんだな?」

ウルフェルが小さくうなずく。

「よし!だったら、しばらくうちにいるといい。おまえの気持ちの整理がついたらロンドンまで送ってやるから」

「いいえ、ロンドンには戻りたくありません・・・」

「ふう、なかなか頑固なやつだな」

「ごめんなさい。あ、そういえばここは工房ですよね。もしよければ、ぼくを雇ってもらえませんか?」

奥から聞こえるのみの音を聞き、主人のなりを見てウルフェルは、そう言ったようだった。

「なんだと?!素人が簡単にできる仕事と思ってもらっちゃ困るぜ?」

「わかってます。でも、ぼくはこう見えても木の像を彫るのは得意なんです」

「ほう。ただの素人じゃないってことか。まあいいだろう、ちょうど人手も足りなかったことだし、お前を雇う事にしよう」

「ありがとう」

「だが言っておくがな、これは仕事だ。甘い考えは捨てて置けよ」

「はい!」



かくして、ウルフェルは工房で働く事になったのだった。



posted by ウルフェル at 13:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 自分で書いた小説のようなもの関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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