2006年06月25日

ウルフェルストーリー6

第6話


 ウルフェルが工房で働き始めて数週間たった頃、ひとりの恰幅のいい客が工房を訪れていた。

「主人、頼んでいたものはできているっぱか?」

「やあ、どうもお客さん。もちろん出来ていますとも。おい奥へ行ってあのブーツを持ってきてくれ」

「鍛え上げられたようっぱね」

「ええ、なかなか苦労しましたがね・・・。それにしてもお客さん最近お顔を見ませんでしたが?」

「カリブへいっていたっぱ」

「またですか・・・。幽霊船の噂は本当なんですかねえ」

「今回の航海でだいぶ確証が出てきたっぱ。次の航海では必ず正体を暴いてみせるっぱよ!」

客は両腕を高く上げて、自信たっぷりに言ってみせる。と、そこにブーツを持ったウルフェルがやってきて主人に渡すと作業場へ戻っていった。

「おや、あの少年ははじめて見る顔っぱね」

「ええ、つい最近雇ったばかりのウルフェルです。なかなか筋はいいですが、まだこれからですね」

「ん〜、どこかで・・・」

客はそれには答えず、なにやら考え込んだかと思うと何かを思い出したようすを見せる。

「主人、ちょっと二人ではなせるっぱか?」

「ええ。かまいませんが、なんでしょうか?」

「ここではちょっと・・・」

「そうですか。では酒場へでも行きましょう」

そうして二人で酒場の一番奥まった席に陣どると、客は声をひそめて話し始めた。

「実は、おいらあの少年を見たことがあるっぱよ」

「ほう。ロンドンですか?」

「そうっぱ。でも、それだけじゃなく父親の事も知っているっぱ。あの少年の父親は、イスパニア海軍の戦列艦十数隻を
たった一隻の重ガレオンで駆逐した男っぱよ」

「なんですって!」

「こ、こら。声が大きいっぱ」

昼間の酒場は閑散としてはいても数人の客がおり、ちらっと二人のほうを一瞥して、すぐに興味を失った様子で杯をかたむけはじめた。

「では、ウルフェルはあのヘルムスリー士官のご子息…」

「さすがに知っているようっぱね」

「アムステルダムの住人で知らないものは数少ないでしょう。あのイスパニア艦隊はここに来るはずだったんですから。自国の権勢を誇示するために」

「あの時はおいらも胸のすく思いがしたっぱよ」

二人はしばらく、その時のことに思いをはせていたが、

「ん。ということは、亡くなったウルフェルの母親と言うのはゴメス家のマリア様だったんですか」

と、突然思いついたように工房の主人が言った。

「ほう。ずいぶんとよく知っているっぱね」

「ええ。実は…」

工房の主人がウルフェルから聞いた話を伝えると、

「そこまで聞いていたっぱか。でも、さすがにあれは言っていないようっぱね」

と、もったいぶった言い方をしてみせる。

「ん?いったい、なんです?」

「実は、あの少年がいなくなった日に一隻小型バルシャが盗まれたらしいっぱ」

「犯人はウルフェルだと?そうすると本当にあの嵐の中をひとりで航海していたのか…」

「そのようっぱね。まったく、勇気なのか無謀なのか知らないっぱが、若者の行動力には驚かされるっぱねぇ」

「まったくです」

工房の主人はそう同意してみせたが内心では、

(あなたの行動力も相当なものですよ…)

と思わずにはいられない。

「まあ、とにかく。おいらはロンドンに行ってヘルムスリー殿に会ってくる事にするっぱ」

恰幅のよい男はそう言って酒場を出るとそのままロンドンへと出港していった。



数日後、アムステルダムの酒場にふたたび二人の姿があった。

「で、どうでした?会えましたか?」

「会う事は会えたっぱが」

「どういうことです?」



恰幅のよい男はジェームズとのやりとりを話し始める。

妻が亡くなって喪に服していたジェームズは、まだ軍務には戻らず自宅にいたので会う事はたやすかった。

だが、ウルフェルの事がアムステルダムの工房で働き始めた事を話し始めたとたんに表情が険しくなり、

「私には息子なぞおらん、帰ってもらおう」

と不機嫌そうに言い、出口へとうながしてみせたのだった。



「また、ずいぶんと怒っていたようですね」

「いや、まだ続きがあるっぱ」



扉の外に出た男が途方に暮れていると、ジェームズが出てきて、

「工房の主人も半人前を雇って大変だろう。すまないがこれを渡してもらえないかね」

といって、ずしりと重い袋を手渡すと家の中に戻っていった。



「それがこの袋っぱ、確かに渡したっぱよ」

工房の主人は袋を受け取り中を確かめてみると、そこには100万ドゥカード分ほどの金貨が入っていて目を丸くしたが、さらによく見てみると手紙が一緒にはいていることに気がついた。

開いて読んでみるとそこには、


『すまないが、ウルリックの事をよろしくお願いします』


とだけ書いてあったのだった。











posted by ウルフェル at 15:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 自分で書いた小説のようなもの関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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